Vol.21
5 January 1999

車は走れば

 8月1日。土曜日。買い出しの日です。車にキーを挿し込みドアを開けました。「?」嫌な予感。僕の車は運転席のドアのロックを解くと、すべてのドアのロックがはずれる仕組みですがそれが機能していません。祈るような気持ちでキーを挿し込み「始動!」駄目です。うんともすんとも言いません。「バッテリーかなあ。」とジョセフに手伝ってもらってバッテリーを外します。充電して戻してみますが動きません。

 ヒューズ・ボックスを開けてみると、何と一番太い、100アンペアのメインのヒューズが飛んでいます。これでは動くはずがありません。でも土曜日は店は半日。バッテリーの充電なんかをしていましたからもう手後れです。

 さて月曜日。朝仕事に行く前に車のパーツを扱う店に立ちよります。それほど切れるヒューズではないですし、ランドローバーの専用品ですから無いかもしれない、と思っていたら幸いなことに在庫がありました。この日はヒューズを買っておしまい。

 翌火曜日。100アンペアのヒューズが飛ぶ、なんていうのは余程のことです。どこかがショートしていたら、新しいヒューズを付けてもそれでおしまいです。というわけで修理工の人に来てもらうことにしました。プロジェクトのドライバーに探してもらった修理工は、電気周りを専門にしており、以前プロジェクトの車も修理したことがあるそうです。自分の修理工場は持っておらず、頼まれると出かけて行って修理します。

 さて道端で彼を見つけ、事情を説明して家まで来てもらいました。手にしているのは径の揃わないスパナが数本、電気が流れると分かるようになっているドライバーが一本。その外には何も持っていません。助手が一人いましたが、まだ顔にあどけなさが残る、穴のたくさんあいた服を着た少年でした。

 家に着き、ドライバーに通訳してもらって状況を説明すると、まだ話が終わらない先からエンジンの横をいじり始めました。そしてバッテリーをチェックし、「バッテリーが上がっている。バッテリー液を換えて充電しないとチェックできない。」ということでいったんバッテリーを持って帰りました。

 さて2時間後、バッテリーを持って再び現われた彼らは、「発電機に問題がある。」と断言。取り外しにかかります。取り外した発電機を分解にかかりますが、スパナの径が合いません。「ちょっと取ってくる。」といったん帰り、再び作業開始。

 分解してみると、中の部品がいかれているようです。「何で丁寧に乗っているのにこんなところが壊れるの?」不思議ですが壊れたものはしかたありません。ドライバーにお金を預け買いに行ってもらいました。しばらくすると「何軒まわっても純正品が売っていない。」「え?どうすればいいの?」「日本車用の部品を付ければいい。」僕の車は英国車です。本当かいな?とは思うものの自信たっぷりの様子。

 さて買ってきた他の車用の部品、どうやって形も違うのをくっつけるのかと思ったら、ボンネットの中の空いている所に固定し、電線を伸ばして繋いでしまいました。そして車を動かしてみると、ちゃんと動きます。ヒューズも飛びません。何とかしてしまうことにかけてはタンザニアの修理工は天才的です。町中にもの凄く古い車が走り続けているのもこれで納得が行きました。

 でもふと見ると、タコメーターが動いていません。「ちょっとちょっとタコメーターが動いてないよ?」と言うと「ああ、そりゃ純正部品以外じゃ動かないよ。」はい、車が動けばいいんです。失礼しました。


後日談

 この修理が終わってしばらく後、バッテリーが再びあがって動かなくなりました。3年も経つバッテリーですから寿命かと思い買い換えました。そして2週間後、休日にアルーシャに行ってお昼を食べ、さて帰ろうと思うとエンジンがかかりません。偶然居合わせたモシの日本人の方の車で引っ張ってもらってエンジンをかけ、何とか帰り着きました。モシに着く頃にはバッテリーは完全にあがり、窓の開け閉めもできないほどです。

 翌日早速修理工場へ持ちこみ次の日取りにいくと、取り替えたばかりのはずの発電機の一部が焼けていたそうです。その上「タコメーターが動いてなかったので直しておいたよ。」うーん、純正部品がないせいじゃなかった…。

タンザナイト copyright© Since 1996 Hitonomori Co. Ltd.