Vol.21
5 January 1999

授業料

 途上国にいるといろいろな事件が起こります。自分の不注意によって失敗した、運が悪ければ犯罪に遭ってしまった、ということはかなり頻繁にあります。こうしたケースの時に盗られたものや無駄に費やした労力を、僕らは「授業料」と呼んでいます。失敗を繰り返し、コストを払いながら学んでいるわけです。

 さて僕のプロジェクトでも、ずいぶん以前にカレンダーが紛失した話などを書きましたが、なくなったものはそれだけではありませんし、またその他の些細な事件や犯罪行為は頻繁に起きています。中には明らかに内部犯行としか考えられないものもありますが、ある程度はこうした国で仕事をして行く以上、織り込んで考えなくてはいけないリスクなのかもしれません。

 さて、もう去年になってしまいましたが、雇っている労働者の雇用日数がどうもおかしい、ということに気づきました。最高でも一月に23日までに押さえる、ということにしているにもかかわらず、支払簿には25日と記録されています。「これおかしいんじゃないの?」と、タンザニア人スタッフに会議の席上で指摘しました。

 さてそれから数日後、スタッフの主だったメンバーが「ちょっと話がある」と、僕と同僚を呼びました。深刻そうな顔をした彼らが切り出したのは、「支払簿が偽造されている。」という、ことでした。

 どうやら、支払簿を作っている秘書が、労働日数と金額を変えた二つのシートを印刷し、労働者には少ない方を見せて労賃を支払い、会計担当の同僚には偽造した高い方を示して差額を横領していたようです。金額的には大したものではありませんが、会計担当が去年の頭に代わって不慣れなことをいいことに、数ヶ月にわたって誤魔化していたようです。

 この秘書は、仕事は丁寧で、人柄も悪くなく、同僚は全面的に信頼していただけにショックは大きく、事実を知らされたときには彼女は思わず涙をこぼしてしまいました。注意深くすれば払わずに済むのが途上国での授業料ですが、むしろ払い続けていた方が良かった、と思えるときもあります。

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