Vol.14
7 September 1997

黒い少年たち

メセラニ村

 仕事で時々行くマサイ族の村の話は、以前にも書きました。プロジェクトを見学に来るお客さんがあると、この村へ案内することが多いのですが、一様にマサイの人が住んでいる環境の厳しさに驚きます。ただ反応が違うのは「こんな所に木を植えてどうするの?」と言う人と、「こんな所でまでよく頑張っていますね。」と言う人の二通りがあることです。でもどちらの感想にも欠けているのが、どうするかを決めるのも、頑張っているのも、僕らプロジェクトの人間ではなく村のマサイの人達である、という認識です。

 まあそれはさておき、マサイ族は絵になります。八頭身どころか九頭身くらいあるのではないでしょうか。長い足は、僕らのへその高さくらいから始まっているように思えます。彼らの美しさは本当に自然なものです。一度キムタクを連れてきて、裸の上に赤い布だけを纏わせてマサイと一緒にサバンナに立たせてみたいと思います。そうすれば誰にでも僕の言っている自然の美しさの意味が分かるのではないでしょうか。

黒い少年達 8月の初めに広報用の写真撮影のためカメラマンが訪れました。例によって美しいマサイを撮ってもらうために村へ出かけました。まず村の顔役に趣旨を話し、了解をもらいます。もともと写真が好きな人達ですからすぐにOKが出ました。やらせのために持ってきた苗木を村の人達に配り、撮影を行っていると、黒い布を纏い、顔に白い模様を描き、手に弓矢を持った少年の一団が現れました。

 この一団、去年も一度だけ見たことがありますが、いないことの方が多く、一体どんな集団なのか不思議に思っていました。

 マサイ族にはAge classと呼ばれる、年齢に応じた一種の階級のようなものがあります。有名なマサイ族の戦士もそのクラスの一つです。この黒衣の少年達もクラスの一つだろうと考えていましたが、それにしてもいないことの方が多いのはなぜだろう?とずっと不思議に思っていました。それで今回直接マサイの人達に尋ねてみました。

 そしてわかったのは、この黒衣の少年達は、割礼を終えたばかりであることでした。割礼を終え、傷が完全に癒えると少年から青年のクラスであるモラン、つまり戦士になりますが、それまでのごく短い間だけこうしたスタイルをしているのだそうです。それで普段見かけない理由も理解できました。村で割礼が行われた直後のしばらくしか存在しない、クラスと言うよりは元服のような通過儀礼的な存在だったからです。

装身具 面白いのは少年達が身につけているものです。大きな銅の首飾りを着けている少年がいますが、この首飾り、割礼の痛さを我慢したご褒美としてお父さんが与えるのだそうです。

 もっと面白いのは指にいっぱいつけた指輪です。少年達の持っている矢、実は先には蜜蝋がつけてあり、当たっても危険が無いようになっています。では少年達は弓矢で何を狩るのでしょうか?なんと少女達です。少女を追い掛け回し、矢を射て当てられた少女から指輪を奪うのだそうです。また指輪だけでなく、カラフルなベルトも少女から奪ったものだそうです。

 この日はいつもいる若い少女達が見当たらなかったのですが、少年達に見つからないよう隠れていたのかもしれません。この儀式、子供から、男女の区別のある大人へと脱皮するという意味があるのでしょう。なお奪ったものはすべて儀式の終わりに、持ち主の女の子達に返すのだそうです。

 少年達が指につけている指輪、よく見てみると、夜店で売っているような安いおもちゃのようなものもありますが、中には銅線を器用に巻いたものがたくさんあります。この銅線、どうやらどこかの電線から調達してくるらしいのです。電線が盗まれる(マサイの人達にとっては収穫、でしょうか)、という話を聞いたことがありましたが、指輪に加工されていたとは思いもしませんでした。

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