Vol.21
5 January 1999

痩せこけたライオン

 年末年始のお休みには、毎年どこかへ出かけています。昨年は正月にセルー動物保護区へ出かけ、一昨年はザンジバルの海へと出かけました。さて今年は、と言っても実際には去年なんですが、クリスマスが4連休になったので、日本から遊びに来た友人4人と2台の車に便乗して、ンゴロンゴロとセレンゲティに出かけてきました。ンゴロンゴロは10回以上行っていますし、セレンゲティは多分7回目くらいじゃないか、と思います。今回のサファリで印象に残ったのは、動物たちが繰り広げるドラマでした。


 ンゴロンゴロにはマガディという名の小さな湖があります。これは塩湖を意味するマサイ語です。東アフリカの塩湖にはほとんどどこでもフラミンゴが見られますが、ここも例外ではありません。フラミンゴたちは岸に近い浅瀬で藻をあさっています。下の写真、中央に見えるのがマガディ湖です。

 さてジャッカルをご存知でしょうか。動物番組でもたいていは脇役、ライオンの後のハイエナの、そのまた後で死肉にありつく情けない動物、というのがおおかたのイメージかもしれません。

 僕らが乗った車がマガディ湖に近づいたとき、岸辺に2頭のジャッカルがいました。見ているとそのうちの一頭が急に猛スピードで走り始めました。体を下げ、ギャロップで走る姿はまるで別の生き物です。そしてそのジャッカルは、一羽のフラミンゴに飛びつきました。飛び散る羽根。フラミンゴは翼を広げます。息を呑むようなピンク色の断末魔。一瞬後にはフラミンゴはもうぐったりしてジャッカルにくわえられていました。


 どこの国立公園でも、たいていカバが多くすんでいる場所があり、ヒッポ・プールと呼ばれています。ンゴロンゴロのものは、それほど大きくもない池に、数十頭のカバが住んでいます。僕らが行って見ると、珍しいことに日中だというのに数頭のカバが丘の上に出ています。そしてそれよりも目を引いたのは、そのすぐ側にある一頭の死骸でした。お腹を裂かれたそれは、どうやら前の晩かこの日の早朝にライオンの餌食になったもののようです。

Hyena そしてカバの死骸の向こうから一頭のハイエナが現れました。ハイエナは肉を一口噛み、自分のものであると宣言するつもりか、体をカバにこすりつけ始めました。ハイエナの出現を見た他のカバたちは、のろのろと立ち上がり、水の中に逃げてしまいました。

Lion するとその時、10メートル以上離れた草むらから、一頭のオスライオンが飛び出してきました。驚いたハイエナはカバから飛びのきます。しかしライオンはそれ以上近寄ることもなく、しばらくハイエナを睨んでいましたが、ハイエナがカバに寄って来ないのを確かめると、再び草むらへと隠れてしまいました。


 カーン、カーン、音が草原に響き渡ります。

 音の源は2頭のオスのインパラ。頭をぶつけ合い、角を絡ませて戦っています。縄張りを巡る争いのようです。2頭の大きさに違いはありません。戦いはいつ始まったのでしょうか?僕らが見始めて20分は経ったでしょうか。永遠に続くかのような力比べですが、突然一頭が全力で逃げ始め、もう一頭がそれを追いかけ始めました。僕らにはどうやって勝負がついたのか、皆目わかりません。


痩せこけたライオン 一頭のオスライオンが、セレンゲティの草原を歩いています。毛並みの悪さはそのオスが、相当の老齢であることを示しています。くっきりと浮き出たあばら骨、そしてぺっちゃんこのお腹は、このオスがここしばらく何も食べていないことを物語っています。

 オスが目の先に捉えているのはシマウマでもなく、ヌーでもありません。子供を引き連れたメスたちの一団です。オスは、もう自分の力では獲物が獲れません。メスたちが獲った獲物を貰わない限り、生きるすべはありません。

 メスたちの群れは、子供たちがいるせいか、時々立ち止まりながら、ゆっくりゆっくり歩いていきます。メスや子供たちは丸々していますから、こちらは十分に食べているのでしょう。かつて多分この群れを支配していたであろうオスの姿とは対照的です。オスは立ち止まったメスたちの群れの最後尾に追いつくと、そこでばったりと倒れてしまいました。メスたちはオスのことを気にかける様子もなく、再び歩き始めました。でもオスはもう起きあがりませんでした。

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