Vol.7
10 May 1997

ニュキニュキ!

 休暇を終えて日本から帰ってきた十月最後の日、荷物を開け衣類を整理していました。すると2階の寝室を掃除しようと階段を上がりかけたメイドのフェリスタおばさんが、突然大きな声で「ニュキ!ニュキ!」と叫びました。一瞬「ヘビでも出たのかな?」と思いましたが、ヘビは「ニュキ」ではなく「ニョカ」のはずです。はて「ニュキ」とは何だったかと思いだそうとしながら階段を上がりかけると、いました。一匹の蜜蜂です。そう、「ニュキ」は蜜蜂のことでした。

 でも蜜蜂が迷い込んでくることなどよくあります。何を騒いでいるのかと2階にたどり着くと、聞こえてきました、すごい羽音が。何と2階の寝室は蜜蜂の大軍で満たされていたのです。「ひえー!今晩どうやって寝ればいいんだ!」などと思いながら様子をよく見るため「危ない!」と言うフェリスタおばさんの制止を振り切り、寝室に足を踏み入れました。

 アフリカの蜜蜂は日本で普通養蜂に使われる西洋蜜蜂などに比べて狂暴だそうですが、脅かしさえしなければ襲っては来ないはずです。ゆっくり動きながら部屋の中を調べると、わずかに開いているたんすの引き出しの当たりに蜂が集中していました。

 養蜂家の読者ならお分かりでしょうが(いるのかなあ)、どうやらこれは分蜂と呼ばれる、新しく女王蜂が育った時に、元の女王蜂が働き蜂を引き連れて巣から旅立ち、巣を分ける現象だったようです。新たに巣をかける場所を捜し求めて開いていた窓から大軍で部屋に入り込んだのでしょう。養蜂家はこの分蜂の時に女王蜂をうまく自分の巣箱に誘導するようです。僕も窓の外側にでも養蜂箱を置いておけば、養蜂を始めることができたのですが。

 でも幸いなことに僕のパンツと靴下の入った引き出しは、ちゃんと洗濯してあるのにお気に召さなかったようで、群れは去っていくところでした。しかしかなりの数が出口がわからなくなったようで部屋に残ってしまい、かわいそうですが殺虫剤の犠牲になりました。よけいな殺生はしたくありませんでしたが、ぶんぶんいっている蜂たちをうまく開いている窓から屋外へ誘導することはちょっと困難でした。

Beehive 養蜂箱といえばその名の通り箱型のものを想像しますが、東アフリカで伝統的に使われているものは、英語でLog hiveと呼ばれる丸太を使ったものです。これを大きな木の枝からぶら下げます。

 ここタンザニアでは、面白いことにぶら下げる木は自分の所有物でなくてもよいようで、村有地などの木にたくさん巣箱がぶら下がっているのを見かけます。巣箱をぶら下げた木は伝統的に暗黙の了解で、切ってはいけないことになっているそうですが、こうした慣習は東アフリカに広く分布しているようで、文献でも頻繁に見かけます。

 「プロジェクト・サイトの木全部に巣箱をぶら下げておけば討伐が防げるじゃないか!」と提案しましたが、案の定一笑にふされてしまいました。

beehives また同じ丸太の巣箱といってもケニアとタンザニアでは作り方が異なっており、ケニアでは丸太を両側から刳り貫いていって最後に蓋をするのが一般的ですが、タンザニアのものはまず丸太を縦に二つに切ってから中を抉り、後で再び合わせて作るようです。

 ケニアにいたとき農民から聞いた話ではこうした伝統的な丸太の巣箱は収穫が面倒で、箱型に比べ収量も少ないそうですが、蜂に気に入られやすく、箱型のものよりも早く蜂が入ってくれるのだそうです。

 またキリマンジャロ周辺に住むチャガ族は、蜜蜂以外の種類を使った養蜂をするのだそうです。でも残念ながらこれは最近文献で読んだだけで実際に見たことはありません。土着の小型の蜂を使うようですが、この蜂は毒針を持っていないのだそうです。

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