Vol.16
2 December 1997

水と自転車と男と女

 戦前までは日本でも女性が自転車に乗っているのはおてんばの代名詞、良家の子女がすることではなかったようです(自分で見たわけじゃないですよ、もちろん)。その頃は逆に良家じゃない所の子女は、自転車なんか高くて買って貰えるはずも無かったでしょうから、自転車に乗っている女性はかなり珍しかったのだと思います。

 タンザニアでも、自転車に乗るのは男性と相場が決まっているようで、女性が乗っているのを見かけるのは珍しいことです。これは活発的に外へ出かけるようなことをするのは男性の役割、という観念があることもあります。さらに、タンザニアでも男性は生活以外にそうしたおもちゃ的な物を欲しがる面もあり、またタンザニアで手に入る自転車が、頑丈な実用車でフレームが高く、スカートや腰に布を巻きつけている女性には向かない、ということもあると思います。

 女性がなぜ自転車に乗らないか、という疑問はさて置き、ここでは自転車は一般的に男性の物だ、と思ってください。

 話は変わって時々書いている水汲みです。これは伝統的にもっぱら女性の仕事。何キロも離れた所へ毎日水汲みに行くのは並大抵の仕事ではありません。なぜこれに自転車を使わないのか不思議に思うのは僕だけではありません。多くの農民達も当然同じことを考えたようで、最近は自転車の後ろにポリタンクをいくつも付けて、水を運んでいるのを見かけます。

水タンクを付けた自転車 ところが、自転車で水汲みをしているのはほとんどが男性なのです。普通男性は「水汲みなんて女の仕事だ!」とばかり、水汲みを進んでやろうとはしません。こちらでは水を入れた容器を頭に載せて運びますが、頭に載せて運ぶ行為そのものが、女性だけの物、とされています。

 ではなぜ男性が自転車なら水汲みをするのか。きっと葛藤があったのではないかと思います。「水汲みは女の仕事だ。でも水場は遠いし自転車は水汲みに便利だ。いや待てよ、自転車は男の物だ。男は水汲みをしないぞ。自転車を貸してやろうか。でもやっぱり女に自転車を渡すのはしゃくだ。頭に載せるわけじゃないから、ま、いいか。」そして男達は自転車で水汲みを始めましたとさ。

 葛藤の話はフィクションですが、もし自転車をたくさん援助したら、男達が水汲みを始めて、女性が助かるのでは、と考えています。

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