Vol.16
2 December 1997

お金を貸す

 途上国にいると、日本人は誰でも金持ち、よく「金を貸してくれないか?」という話になります。今まで暮らしたことのあるラテン・アメリカ等では、貸す時には覚悟を決めてからにしないと、貸したものは返ってこない、というケースがかなりありました。

 それほどではないにしろ、ネパールやケニアでも、踏み倒された借金、というのは何度も経験しています。彼らお互いどうしなら、貸した借りたとやっている内にプラスマイナス帳消しになるかもしれませんが、僕らなど日本人の場合は一方的に貸すばかりで、結局は貸し損になります。

 それでもタンザニアで、今まで計7人にお金を貸しました。現地の人どうしでも結構貸し借りはあるようですし、僕にとってもこれもまた途上国における社会生活の一部、特に職場の人や自分の使用人に頼まれたなら、潤滑油と考え、できる限り応じることにしています。無論貸す時にはそれなりの覚悟を決めています。

 ところが、意外にも、と言うとタンザニア人には失礼になりますが、みんなちゃんと返してくれるか、少なくとも返そうと努力しているのが分かります。お金を貸した7人の内、3人は完全に返してくれ、あとの4人は額がちょっと大きいこともあって分割払いですが、こちらから何も言わなくても月初めに、「はい、今月分。」と持ってきます。

 かなり以前にタンザニア人は公共のものを大事にしない、といった話を書き、公共心の及ぶ範囲が日本人とは違う、という説を展開しました。この借金の件で思うのは、そこに人間関係があるかどうか、ということが大きなポイントの一つではないか、ということです。個人として認識している人の持ち物ならば大事にするが、不特定多数の持ち物は尊重しない、そんな気がします。

 タンザニアの人達は、ずうずうしいかと思うと意外にシャイな所もあって、借金も面と向かって直接的に「金を貸してくれ」とは言いません。一応はお金を借りるのは恥ずかしいこと、できればしてはいけないこと、という意識があるようです。

 ですから借金の申込みも、まず自分が面している問題の解説から始まって、ぐるぐる廻りながらお金に近づいていきます。僕などは余分なことを聞いている時間がもったいないから、単刀直入に言って欲しいと思うのですが、それははしたないことなのでしょう。

 もっと手が込んでいるのは、同じ職場にいるのにわざわざ手紙を書いてきます。タイピストが借金の申込みに来た時は、その手紙をごていねいに封筒に入れ、それがなんであるかは一言も言わず、

 「Mr. Noda はい手紙。」

 なんて言ってきたので、僕はてっきり仕事関係の手紙を届けてくれたかと思って

 「わざわざありがとう。」

 なんてお礼まで言ってしまいましたが、中身は「お金を貸してね」でした。

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