Vol.14
7 September 1997

ライオンに食われる

 ヨーロッパ、特にイギリスによる東アフリカ開拓の歴史は、血なまぐさいライオンとの戦いの歴史でもあります。初期の探検記や、植民地化直後の記録を読むと、キャンプや駐屯地がライオンに襲われた話がたくさん出てきます。ケニアのモンバサ港から内陸に延びるウガンダ鉄道の建設では、ツァボ周辺で人食いライオンが数多く出没し、建設作業員だけでなく、安全を確保していたはずの白人の監督官も犠牲になっています。この話は映画にもなっているそうですから、ご存知の方もいると思います。

 ライオンは普段あまり人を襲うことはなく、年老いて野生の動物を獲れなくなったものが危険になる、と言われていますが、そうでないものも、一度人間を獲る事の方が他の草食獣を襲うより簡単なことがわかると、癖になってしまうようです。たかが大きなネコ、とは言え、集団で役割を分担して狩りをすることができるほどの知恵者です。侮ることはできません。

 今でもタンザニアでは、南部の方でライオンによる被害が続いている地域があります。先日読んだ新聞によると、その地域では今年に入ってライオンに襲われて亡くなった人の数はなんと16人にのぼります。これに対して殺されたライオンの数は17頭。新聞を読んでいるだけの我々は「いい勝負だな。」で済みますが、両当事者にしてみたら生死を賭けたバトルです。

 多分背景には人口増加による農地のサバンナ地域への拡大と、それによる野生の草食獣の減少があるのだろうと思います。マサイ族のようにサバンナに住んでライオンと戦い、あるいは共存してきた人達と、農耕を主体に生活してきた人達とでは全く違います。つまり元々は人間の側がライオンの生息地を犯しているのでしょう。人を襲うのはライオンの生きるための手段でしょう。そうは言っても誰もライオンに食われたくはありません。一体どうすれば良いのでしょうか?

 しかしワニに食われる話といい、ライオンに襲われる話といい、普段えらそうな人間も単なる肉の塊、動物の一種に過ぎないことを思い知らされます。

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