Vol.22
25 December 1999

ベンデラ村の失敗

 ベンデラ村は僕らの職場があるサメの町とは南パレ山脈を挟んだ反対側、車で走ると約100キロほど離れた所にある村です。この村自体は乾燥した気候ですが、村の中を川が流れているのでその水を利用した水田耕作が行われています。

 この村を特徴付けるのは女性の強さです。他の村では男性が権力を握っていて女性の発言権はありませんが、この村では村長が女性、そして強力な女性グループが存在します。僕らがこの村に入り始めた時にすぐコンタクトをしてきたのがこの女性グループでした。なにしろ村長自身がメンバーですから。

 プロジェクトのスタッフは女性グループからの苗畑を作りたい、という申し出にすぐ乗ってしまいました。僕は逆に警戒をしていました。なぜなら以前に書いたように特定のグループを支援することが村の中に軋轢を生んでいる例が多々あるからです。この可能性をスタッフに確認させましたが「村人は、苗木を女性グループから買うと言っている」と言います。僕自身は納得していませんでしたが、様子を見ることにしました。

 さて実際に女性グループがプロジェクト・スタッフの指導を受け、数千本の苗木を作りました。そして雨季です。植林のシーズンです。ところが僕が予想したとおり、村人はほとんど苗木を買いに来ません。とうとうこの女性グループも音を上げて、苗木を学校などに寄付、苗畑をやめてしまいました。話がこれで終わりならこれは失敗の事例になってしまいます。

 実はこれこそ僕が待っていた瞬間だったのです。以前に村で調査をした時の経験から、村の人たちが木を植えるのに興味を持っていることは知っていました。また村長と結びついた特定のグループが援助を独占する傾向があり、他の村人が声をあげられないのも気づいていました。苗木を買わない、というのは言わば村人の無言の不支持表明だったわけです。このグループが苗木を作らないのであれば、他の人やグループが村長の目を気にせずに作ることができます。そして事実、他のグループの苗木作りが始まりました。

 なぜこのような事態が予測できたのに女性グループにやらせたのか?それは必要なプロセスだったわけです。僕らが女性グループや村長の意見を押さえて他のグループにも支援していたら村長グループとの関係がこじれたことでしょう。このグループにうまく行かないことを学んでもらえば、あとは軋轢なく活動できる、という寸法です。

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