Vol.15
12 October 1997

成功と失敗

 たまにはまじめな仕事の話もしてみたいと思います。僕らは無論多くの読者の方が支払っている税金で仕事をしています。ですから当然支払われた税金に見合うだけの成果をあげなくてはなりません。これは民間会社の投資と同じことだ、と僕は個人的に思っています。そして事実時折日本から、プロジェクトの成果を図るための調査団が来ます。

 でもプロジェクトの成果を測る、ということも思ったほど簡単ではありません。林業プロジェクトですから、一番手っ取り早いのは、植わった木の本数を数えることでしょう。でも乾燥地ですから、環境が厳しく、死んでしまう木も多くあります。となると生存率も加味しなければいけないでしょう。最終的に残った木が多ければ多いほどよし。これは単純明解、誰が見ても分かる評価ですし、事実こうした評価をされる事がままあります。

マサイ族のメセラニ村 では良く話に出すマサイ族の村(左の写真。家がわかりますか?)のことを考えてみます。マサイの人達はプロジェクトで苗木を配るまで、自分達で木が育てられる事を知りませんでした。かつては頻繁に移動する遊牧生活を送っていた人達ですから、木など植える習慣が生まれるはずも無かったのでしょう。でもそうした彼らが木を少しですが、プロジェクトと共に植えました。

 植えた当初は、村長さんが付けたのか、木には誰が水をやると明記した札が付けられ、結構面倒を見ていたようですが、段々個人差が現われ、最終的にはごく一部の人が担当したものだけが生き残りました。率にして2割も無いかもしれません。

 さてこのマサイ族の村のケース、植林と言う面から見れば、生存率2割弱ではとても成功とは呼べません。では僕らは「税金の無駄遣い!」と批判の矢面に立たなくてはいけないのでしょうか?

 もう僕が言いたいこともお分かりだと思います。木を植える習慣が無かったマサイの人達が木を育てたという事実。厳しい環境の中で、2割弱もの木が生き延びたという事実は、単純に数や率を数えるだけでは評価できません。お金をいくらでもかけられれば木を植え、生存させる事は難しくありません。それよりも人が何をするようになったのか、長い目で見ればこちらの方がはるかに重要だと思います。

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