Vol.12
10 May 1997

男と女 ジェンダー


「ジェンダー・開発・NGO」

 今回は久しぶりに男と女の話を書きましょう。なんて思わせぶりなタイトルの時は、ちっとも思わせぶりな内容でないことを、慣れた?TanzaNightリーダーであればすぐ見破ったことと思います。はい、今回も皆さんが期待している?ような内容ではありません。

 ジェンダー問題と言っても開発関係者でない限り「なんだそりゃ?」でしょうし、語学関係者は「ははあ、男性名詞、女性名詞の事だな」と誤解されるかもしれません。開発関係でジェンダーと言う時は、男性・女性それぞれの、社会の中での位置づけ、その役割の違い、そしてそれが開発において及ぼす影響、などなどを検討することを指します。TanzaNightは開発学の教科書ではありませんから、解説はこれくらいにして、実際にプロジェクトのあるサメで、このジェンダー問題がどう関わっているかをお見せしましょう。

 まずベンデラ村の話から始めましょう。去年この村へ調査に入りましたが、その時村の人から歓待を受けました。僕らは女性3人男性5人からなるチームでしたが、女性は昼食のもてなしを受けたのに、男性はお茶だけでした。どうしてもお昼ご飯を食べたかった…わけではありませんが、なぜでしょうか?


ベンデラ村の少女達。記事には関係ありません。

 タンザニアの社会は部族による違いはありますが、基本的には男系家族で、男性優位です。ベンデラ村も例外ではなく、家庭内での女性の地位は低いものです。ところがベンデラ村はどのような事情からか知りませんが、例外的に男性がいない世帯が多く、総数の2/3が女性が戸主になっているそうです。このため村長などの地位を女性が占めると言う珍しい状況が生まれています。どうやら我々男性が女性との間でもてなしに関して差別を受けたのは、社会的な地位が高いとされる男性が、常に優先的にもてなしを受けることを拒む、意思表示であったようです。

 ベンデラ村で女性が強いのは、この村が山から流れてくる川の水を利用した水田耕作を行っているのと関係がある、と睨んでいます。伝統的な役割分担では、主に男性は放牧を、女性は耕作を担当します。稲は非常に価値の高い商品作物です。従って、稲作りに従事する女性の立場が相対的に強くなっているのではないかと思います。

 では次に農耕より放牧が主体の村の様子を見てみましょう。マサンダレ村で村民会議を開き、村の問題について討議してもらった時のことです。女性は議長から最も遠い位置にかたまって座っています。女性の中から

「薪を取るために歩く距離が長くて困っている。」

という意見が高い優先順位で出ました。すると男性から

「そんなことは問題じゃない。」

という反対意見が出て、女性の意見は覆され、この日の会議の結果まとめられた問題リストの最下位にすら入りませんでした。さすがにあまりに問題が露骨すぎ、プロジェクトでは後で女性だけに集まってもらって問題を話し合ってもらいました。

 さて隣りのキリンジコ村です。ここは水場が遠く、女性がなんと毎日15kmも離れたところまで水汲みに行きます。他の事をする余裕はほとんどありません。無論この村の最優先事項は水の供給です。男性は僕らが村へ行くと

「水を何とかしてくれ」

の合唱です。ところがある日のミーティング、女性達が男性に向かって

「あんた達の持ってる家畜を私たちに渡してごらんなさい。3年以内に水を引いて見せるわ!」

と言ったのです。

 家畜は伝統的に男性の所有物です。多ければ多いほど裕福と考えられていますから、いたずらに増やし、多い人は数百頭も所有しています。伝統に縛られた男性は、去年のような旱魃の年にも牛を手放そうとはせず、餌の不足で牛が死んで行くことを嘆いても、この莫大な財産を女性の仕事である水の供給のために使おうとはしません。その一方で外からの援助に頼ろうとします。

 女性には夫の見栄よりも生活を何とかしたいという気持ちが強く、財産へアクセスさえできれば、それを使って生活改善を自分達でできる、と言っているのです。

 TanzaNightでも何回か日本では女性の方が元気が良い、と書いて来ましたが、これらの村の様子を見ていると、どうやらタンザニアでも同じ様子です。

 動物のクローン技術も現実化して来ている事を考えると、もう少し未来には、本当に男いらずの社会がやってくるのではないでしょうか。

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