Vol.9
15 January 1997

山火事続報・放火犯を推理する

 前回山の中の造林地で火事がおきて、犯人はワラビを採りたかった日本人ではないか、ということを匂わせました。真犯人はまだわかりませんが、タンザニア人の間では子どものいたずらによる失火、という説の他にやはり放火であるとする説も出ています。

 ではやはりワラビに目が眩んだ日本人が…というのは早とちりが過ぎます。村人の誰かがつけたのではないかという噂があるのです。これは前回やはり紹介した「木を植えたい男」の話と同様に、地域住民の中で植林を進める難しさを示しています。さてでは仮に村人の誰かが犯人と仮定して彼(こういう事をするのは多分男性)はなぜ火をつけたと考えられているのでしょうか?

 順番にヒントを出していきますから何番目でわかったかをチェックしてみてください。あなたの「木も見て人も見る」度が測定できるかもしれません。

ヒント

  1. この村で植林を行っていたのは、村人の有志が集まったグループである。
  2. 植林を行っている土地は大部分が村有地であり、グループが村から借りている。
  3. グループのリーダーは元政府の職員で、強力なリーダーシップを持っている。
  4. グループは高収入が期待できる材木用の木を植えている。
  5. 村人は誰でも一定の条件を満たせばグループに入ることができる。
  6. グループに入るには、自分の所有する土地の一部をグループの共有地として提供しなくてはならないのがルールである。
  7. パレ山地のこのあたりは名目上はすべて国有地であるが、社会主義化した時にも土地の再配分は行われなかった。
  8. パレ族の土地相続制度は男子均分相続で、世代を重ねると土地が小さくなっていく。
  9. このあたりは人口過密地帯で、土地がこれ以上細分化できないまで小さくなってしまい、外部に移住している人も多い。

噂されている解答

 昔ながらの土地所有と相続制度の結果一方には土地に余裕のある人がいて、もう一方にはそうでない人もいます。持っている人達は強力なリーダーの元に集まりグループを作って、村の土地まで獲得して営利的な植林に乗出しました。余分な土地を持っていない人はグループに入る資格も与えられず、持てるものがより多くを得ようとするのを黙って見るしかありません。でももしその中の誰かが黙って見ているのをやめたとしたら?

 最初のヒントでぴんと来た人もいるでしょう。グループがある以上それに入っていない人がいることも明らかだからです。

 難しさもあるけどこの仕事、自然科学(木)と社会科学(人)の両方にまたがり、奥が深くて面白いことがわかってもらえるかと思います。

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