Vol.9
15 January 1997

幻の鳥 トロゴン

小道に光が射す 12月始めのある日、アリューシャ国立公園へ一人で出かけました。日本の山に似た湿った林もあり、普段乾燥したところで仕事をしているせいか、なぜかほっとする場所です。

 公園の中でも特にお気に入りの場所は、クレーターの縁の道の行き止まりのところです。

 そこからクレーターの底を見晴らす展望台まで短い距離ですが、車を降りて歩くことが許可されている道があるのです。林の中を歩いていると木に触れられるし、鳥や虫も見ることができます。

 いつもの行き止まりの所まで来ると、バリケードがはずされ、さらに先に進む方向にブルドーザーで道を引っ掻いた跡があります。「そうか、しばらく来ない内に道が延長されたんだ。」と思い、早速入り込んでみました。この日は時折雨の降る天気で下はぬかるんでいます。道はすぐ急な下りになりました。ちょっとやばいかな、と思いましたが「まあいいか」と構わず進むと、坂を下りきってすぐ終点。まだ未完成のようです。

 Uターンし、坂を登り始めると恐れていたことが起りました。道が雨でぬかるみ、スリップして登れなくなってしまったのです。人を呼ぶにも公園の入り口まで5km以上あります。もちろん動物が出るので歩行は禁止です。もがけばもがくほどタイヤが土を抉り、動けなくなります。僕の車はフルタイム四駆ですが、それでも脱出できません。

 車を停め落ち着いてからバックで坂の下まで戻り、副変速機をデフロックに入れます。これは4つのタイヤ全部の回転速度を固定してしまう装置です。そしてエンジンをふかし、ローギアに入れて再度祈るような気持ちで挑戦。初めて使いましたがデフロックの威力は凄く、無事脱出することができました。

トロゴン やれやれ助かったといつもの場所で車を降り、道を歩き始めた時のことです。鮮やかな赤い色を持つキジバトほどの鳥が横切りました。

 一瞬で「あいつだ!」とぴんと来ました。貴重な鳥ではありませんが、森林に住みなかなか目につかない鳥。ケニアで500種類近い鳥を見たにも係らず、一度も見ることができなかったトロゴンという鳥です。

 都合の悪いことにカメラには望遠ではなく、マクロレンズがついており、アップの写真は撮ることができませんでした。でも、気持ちの上では十分満足していました。左の写真はフィルム・スキャナーで読み込んだものを部分的に拡大してあります。本物はもっと鮮やかに見えます。

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