Vol.4
15 June 1996

糞ころがしの季節

 多くの読者は子どもの頃ファーブル昆虫記をどきどきしながら読んだ記憶があると思います。僕も小学校の図書館などで借りてきて、よく読んでいました。子ども向きの版は特に面白い話を選りすぐってあり、短く読みやすくなっていますが、実際には岩波文庫のファーブル昆虫記は20分冊もある代物です。僕は大学生の時、ろくに金も無いのにまとめ買いをして、5巻位までしか読めませんでした。


この写真は本文とは関係の無い時に撮ったものです。

 ファーブル昆虫記の中で有名なのが、狩人蜂と並び、糞ころがしの話です。古代エジプトではスカラベと呼ばれ、神聖視されていたコガネムシの仲間です。

 ご存知のようにこの仲間は草食動物の糞を器用に丸めて玉を作り、卵を産み付けます。孵った幼虫はこの糞団子を食べて生育します。タンザニアにも糞ころがしが何種類もおり、大きなものは6cm位あります。雨が降って土が柔らかくなり、掘りやすい今の季節が、どうやら玉作りの時期のようです。

 先日プロジェクト・サイトの植生調査に付合い、サバンナの中を歩いていると、面白い光景に出会いました。玉を押している一匹に、もう一匹がそれを横取りしようと挑戦しているのです。最もどちらが本当の持ち主(つまり玉を作った本人)だかは知る由もありませんが。糞ころがしは、玉に後ろ足をかけ、前足で地面を蹴り、後ろ向きに玉を押して行きます。

 見ていると、挑戦者は常に正々堂々と正面から挑み、受けてたつ方は、前足で挑戦者を弾き飛ばします。これがなかなかの威力で、挑戦者は20cmあまりも飛ばされますが、怯みもせずチャレンジします。しばらくそうしている内に二匹が絡み合ったかと思うと、元の持ち主が玉から落っこちてしまいました。

 すると奪った挑戦者は一目散、玉を転がして逃げまくり始めました。取られた方はそれを追い、何度か飛び掛かりましたが、跳ね飛ばされてもたついている間に挑戦者は猛スピードで逃げ切ってしまいました。

 このシーンは以前にテレビで見たことがありましたが、本物は初めて、とても面白く、もう一人の日本人スタッフと一緒にしばし見とれてしまいました。この時カメラが手元に無かったのが残念です。

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