Vol.19
2 May 1998

枯れ木を育てよう

 「?」と思われた方がほとんどかもしれません。「枯れ木に花を咲かせよう、なら知ってるけど。枯れ木を育てるってどうやって?」ごもっともな質問です。無論枯れ木が育つわけはありません。ここではとりあえず「どうやって」は横に置いといて、「何のために」に注目していただきたいと思います。

 僕らはあちこちの村の人達と話し合いながら植林を進めていますが、その進み具合は村によって随分異なります。ンジョロ村では薪を採ることを目的に共有地への植林が始まりましたが、マサンダレ村では共有地への植林は、村人の言う所ではあくまで「環境を良くするため」であって、薪を採るためではありません。薪を採るのは女性の仕事ですから、男性だけに聞くのはまずいと女性の参加者に尋ねても、やはり同じ答です。さらには「薪のために木は植えない」とまで言います。

 ンジョロ村では女性が薪を採るに行くのに歩く距離が5km、マサンダレ村では2kmですから、村によって植林の緊急性に違いが出るのはもっともではあります。でも一人の女性が面白いことを言いました。「生きている木は切れない。」

 それを聞いてはた、と思い当たる節がありました。確かにこのあたりの人達が薪用に生木を切り、乾燥させて使っているのを見た記憶がありません。ネパールやケニアにいた時は、結構生木を切って束ねて運んでいましたし、家々の軒下などには薪が乾してありました。

 でもサメ周辺で女性達が頭に載せて運んでいるのは枯れた木の幹や枝ばかりです。無論一つには枯れ木がまだ手に入る、ということがあるでしょう。枯れ木ならわざわざ乾燥させる手間が要りません。でも「生きた木は薪のために切ってはいけない」という感覚、あるいはルールであるのかタブーであるのか、そこは調べていないのでわかりませんが、そうした規制があることは初めて知りました。

 でもそうなるとますます厄介です。薪のために木を植える、というだけでなく、生木を収穫して乾燥させて使う、という新しい習慣まで生み出さなければいけないわけですから。それならばいっそ最初から枯れ木を植えて育てられないものか、なんていう馬鹿な?発想が出てきたわけです。

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