Vol.10
28 February 1997

水がない

 1月のある日。仕事から家に帰り、顔を洗いました。でもなんだか蛇口から出てくる水に勢いがありません。おかしいと思い、水タンクを調べてみるとカラ!上水道から水も来ていないようです。庭師のジョセフを呼び何が起こったのか聞いてみました。

 「このあたりに来ている水道管が焼けて断水している。」

 8m3も入るタンクです。断水しているとしたらかなり前からのはずです。タンザニアの人達は一般的に物が完全に底を突くまで全く騒ぎません。例えばプロジェクトには町から離れているため車輌用の燃料をストックしてありますが、ドラム缶の中身がすっからかんになってから初めて「空だよ。」と知らせてくるのです。冬のない国で、何かに備える習慣が無いのでしょうか?

 「おいおい、もっと早く知らせてくれたら節水モードで生活したのに」と思っても時既に遅し。無い物は無い、です。てっきり水道局に責任があると思い、翌日ジョセフを水道局に行かせ、またお金を渡してタンク車を頼み、水を買うことにしました。

 さて翌日。帰ってくると、どう見ても10代の少年二人が大八車にドラム缶を積んでやって来ました。ジョセフに聞くと「タンク車は駄目だった。」このジョセフ、働き者ですがタンザニア人にしては珍しく無口なので、一体何が起こったのか正確に把握するのはとても困難です。でも察するに水道局の持つタンク車に来てもらえなかったので、近所の子供に金をやって運ばせた、ようでした。まあ水道局に頼んでも、料金は誰かのポケットに消えるのがおちでしょうから、非効率でも近所の人の収入になるならこれもいいか、と考えていました。

 でもこれでも水は足りず、この日は頭を洗っている内に水が細くなって来てあせりましたが、かろうじて泡を落とすのには間に合いました。しかたなく念のために飲料水用にミネラルウォーターを買いました。

 さてそのまた翌日、近所に住む大家さんのお兄さんがやって来て状況を説明してくれました。彼は流暢な英語を話します。

 「近所の人間が水道管の上でごみを燃やしてプラスチック製の管が溶けちゃったんだ。」

 「えっ、で水道局はいつ直してくれるの?」

 「いや、これはこの近所の人達がお金を出し合って引いた水道管だから、水道局は直してくれない。」

 「!!(初耳)」

 「それで今近所をまわって聞いたんだが、みんな修理するにも金が無いと言うんだ。」

 「。(予想通り)」

 「30,000シリング(約6,000円)なんだけど。」


失礼してお隣りを撮らせてもらいました

 30,000シリングと言えばこちらでは一ヶ月分の給料です。隣りのおばちゃんの顔が思い浮かびました。たとえ30,000シリングを数軒で頭割りしたとしても、電気も引かずに暮らしているお隣りさんに、おいそれとまとまったお金が払えるはずもありません。もう覚悟はできていましたから「ああいいよ、立て替えよう。」とお金を渡しました。

 大家さんの一族は信頼できる人達です。翌日帰ってくると、早くも溶けてグニャグニャになった水道管が庭に置いてありました。金属の管と取り替えたそうです。「ジョセフ、水はもう大丈夫だな?」「いや、まだ来てない。」「!?」なんと管は治ったものの、水が漏れた時にしめた栓を水道局が開いてくれていないと言うのです。

 しかたなくこの日も乏しい水をやりくりです。シャワーを浴びる時、給湯機からのお湯が出てくるまでしばらく時間がかかるので、もったいないと思い水のうちから浴び始めましたが、お湯が出てくるまでに頭も体も洗い終わってしまいました。ネパールの山の中に住んでいた時バケツ一杯の水で済ませていた経験がいきたのでしょうか。


 さてそれから約1ヶ月が経ちました。お湯のシャワーはあれから一度も浴びていません。未だに水問題が解決していないのです。ジョセフや他の人に聞いても要領を得ません。冒頭に書いた旱魃の影響でモシの町中でも水が止まっているところがあるそうなので、そのせいかなあ、とも思っています。

 ただいつもタンクの底にわずかに水があるのが不思議です。水を買うために渡したお金はもう底を突いているはずだし、このわずかな水はどこから来ているのでしょうか?

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